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コラム

比較推奨販売はどう変わるのか ー 2026年改正保険業法と代理店手数料の論点

2026年6月1日に施行される改正保険業法を前に、保険代理店の間で特に関心が高まっているのが、比較推奨販売への対応です。今回の制度見直しでは、乗合代理店における適切な比較推奨販売の確保が明確なテーマとしても打ち出され、金融庁はその具体化に向けた内閣府令案等を公表しています。加えて、金融庁の2025年保険モニタリングレポートでは、「代理店手数料と比較推奨販売の関係性」に関する分析を進める必要性が示されており、比較推奨販売は、もはや説明実務だけの問題ではなくなりつつあります。
これまで比較推奨販売というと、「どのように比較するか」「どのように説明するか」という募集現場の手続や話法の問題として捉えられることが多かったと思います。しかし、これからはその理解だけでは不十分です。いま起きている変化は、比較推奨販売の適切性が、保険代理店の提案行動そのものだけでなく、その背景にある手数料体系や評価の仕組み、そしてそれらをどう管理しているかまで含めて見られるようになってきた、という点にあります。
金融庁は2025年5月に、監督指針改正の論点として「代理店手数料の算出方法適正化」を掲げ、その後の監督指針改正では、保険代理店手数料が不適切なインセンティブとなって不適切な募集を誘引しないよう留意すべきことや、「規模・増収率」に偏らず「業務品質」を重視すべきことを明確に示しました。

■これまでの比較推奨販売と、これからの比較推奨販売は何が違うのか

これまでの実務では、「適切な比較推奨販売を行うこと」自体が中心でした。もちろん、それは今後も変わらず重要です。ただ、制度改正後により強く求められるのは、「適切な比較推奨販売を行ったことを、後から説明できるか」という視点です。
金融庁が進めているのは、単に比較したかどうかを見ることではなく、その比較が顧客の意向やニーズに基づく合理的な判断だったか、その判断が記録として残されているかを見ていく方向です。
例えば、複数社の保険商品を提示していたとしても、なぜその保険商品を中心に説明したのか、なぜ他の保険商品は推奨しなかったのか、顧客のどの意向を重視したのかが記録として残っていなければ、後から適切性を説明することは難しくなります。逆に、比較対象の選定理由、推奨理由、例外対応の理由まで含めて整理されていれば、比較推奨販売の適切性を第三者に対して示しやすくなります。これからの比較推奨販売は、説明の巧拙だけでなく、判断の過程を証跡として残せるかどうかが大きな分かれ目になっていくと考えられます。

■なぜ代理店手数料が論点になるのか

今回、皆さんが最も気になるのは、「なぜ比較推奨販売の話で代理店手数料が出てくるのか」という点だと思います。これは、手数料が高い保険商品を販売しただけで直ちに問題になる、という意味ではありません。問題になるのは、提案行動が顧客意向ではなく、手数料体系や評価制度に引っ張られているのではないかと見られる構造があるかどうかです。
金融庁の2025年保険モニタリングレポートでは、乗合代理店における比較推奨販売の実態と、保険会社における募集手数料を含む収益コスト構造との関連について理解を深める必要があるとされており、必要に応じて手数料開示の検討にも触れています。
つまり当局は、比較推奨販売を「比較表を使ったかどうか」という表面的な問題としてではなく、代理店の推奨行動がどのようなインセンティブのもとで行われているかという構造的な問題として見始めています。そのため、たとえ現場では丁寧に説明していたとしても、特定の保険会社や商品に提案が偏っており、その偏りについて合理的な理由や記録が残されていなければ、外形的には手数料との関係を疑われるおそれがあります。だからこそ、今後は「適切に募集しているつもり」では足りず、その提案が顧客意向に基づくものであることを記録と管理で示す必要が出てきます。

■問われるのは、比較したことではなく提案の根拠です

比較推奨販売の実務で、今後いちばん重要になるのは、比較したという事実そのものではなく、提案の根拠です。
顧客の意向をどう把握したのか。比較対象をどう選んだのか。なぜその保険商品を推奨したのか。例外的な提案であれば、なぜその対応になったのか。こうした判断の積み重ねが見える形で残っていなければ、適切な比較推奨販売であったと説明することは難しくなります。
金融庁が2025年12月に公表した改正案でも、比較推奨販売の具体的な運用を制度として詰めていく方向が示されており、今後は実務の説明可能性がより重視されることが見込まれます。
その意味で、これからの比較推奨販売は、「いかに適切な保険募集を行うか」というだけでなく、「いかに適切な保険募集を行ったことを証跡として残せるか」が本質になっていきます。これは単なる記録負担の話ではありません。顧客本位の提案を行っていることを、自社自身が後から検証できるようにするための土台でもあります。比較推奨販売は、募集品質の問題であると同時に、募集品質をどう証明するかという管理態勢の問題に変わりつつあるのです。

■推奨販売方針は、文書ではなく運用で見られる

多くの保険代理店では、すでに推奨販売方針を整備していると思います。しかし今後は、方針があるかどうかではなく、その方針が案件毎にどう機能しているかが見られます。
顧客から比較を求められた場合の対応、中心的に説明する保険商品の選定理由、例外対応の管理、管理者による確認、事後点検まで含めて運用されていなければ、方針と実務がつながっているとはいえません。金融庁は、保険代理店における体制整備や保険募集等の適切性について、日常的な教育・管理・指導に加え、監査等を通じて検証し、課題が認められた場合には改善を求めることを監督上重視する考え方を示しています。
したがって、今後の比較推奨販売対応では、推奨販売方針の文面を見直すだけでは足りません。募集帳票、システム入力項目、募集人教育・研修、管理者レビュー、内部点検、内部監査までを含めて、一体で設計し直すことが必要になります。比較推奨販売と保険代理店手数料の関係が監督上の論点として定着しつつある以上、現場任せではなく、代理店全体の管理態勢として整備することが不可欠です。

■管理責任者がいま確認すべきこと

このテーマで実務上の中心になるのは、経営者の抽象的なガバナンス論というより、管理責任者による日常的な確認・指導・点検です。
管理責任者がまず確認すべきなのは、自社の募集実務が属人的な判断に依存していないかという点です。顧客の意向把握の内容と提案理由がつながっているか。推奨理由が第三者にも分かる形で残っているか。例外対応の理由が明確か。募集人ごとの対応にばらつきがないか。こうした点を継続的に点検することが、比較推奨販売の適切性を維持するうえで欠かせません。大規模乗合代理店の体制整備強化の流れを見ても、法令等遵守責任者や統括責任者による実効的な運用が重視されていることが分かります。
また、管理責任者には、案件確認を通じて指導を行うだけでなく、募集人教育・研修の中で「何を説明するか」だけではなく、「どのように残すか」まで徹底する役割が求められます。今後の比較推奨販売対応では、記録があるかどうかではなく、記録の内容から判断の過程が追えるかが重要になります。
したがって、管理責任者の役割は、単に不備を探すことではなく、適切な提案と適切な証跡が自然に残る運用を現場に定着させることにあるといえます。

■これからの比較推奨販売対応に必要な視点

2026年改正保険業法を前に、比較推奨販売対応は単なる法改正対応ではなくなっています。比較推奨販売と代理店手数料の関係が論点になるなかで、自社の提案行動をどう説明し、どう証明するかという、保険代理店全体の管理運営の問題になっています。金融庁は、適切な比較推奨販売の確保、代理店手数料の算出方法適正化、保険代理店に対する指導等の実効性確保を一連のテーマとして示しており、今後もこの方向は強まると見るのが自然です。
今必要なのは、ルールを増やすことだけではありません。顧客意向に基づく提案と、その判断過程の証跡が自然に残る業務設計へと移行することです。比較推奨販売はどう変わるのか。その答えは、比較のやり方が変わるというより、比較推奨販売を後から検証できるように残すことが不可欠になる、という点にあるのだと思います。今後の比較推奨販売対応においては、適切な提案の実践に加え、その判断過程を検証可能な形で残す管理運営を確立することが、保険代理店に求められる重要な対応課題になるものと考えます。