「補充原則は保険会社だけのもの」という理解は正しいのか
近時、保険代理店の顧客本位の業務運営方針について、保険会社の点検・検査等の場面で、次のような指摘を受けたという相談が複数寄せられています。
保険代理店に対して行われている主な指摘
- 「プロダクトガバナンスに関する補充原則は、商品を組成する保険会社が採択するものであり、保険代理店が採択するものではない」
- 「保険代理店が補充原則まで採択するのはやりすぎではないか」
このような指摘は、一見するともっともらしく聞こえるかもしれません。
確かに、金融庁の「プロダクトガバナンスに関する補充原則」には、「金融商品の組成に携わる金融事業者は」という表現が多く使われています。そのため、商品を組成する保険会社が、補充原則において中心的な役割を担うことは当然です。
しかし、補充原則の本文の主語だけを見て、保険代理店には一切関係がないと解釈することは、金融庁原則全体の趣旨を正確に捉えた理解とはいえません。
プロダクトガバナンスは「保険会社だけ」で完結するものではない
金融庁は、プロダクトガバナンスについて、個別の商品組成だけに着目するものではなく、製販全体として顧客の最善の利益を実現するための取組みとして位置づけています。
「製販」とは
商品を組成する側と、商品を販売する側の双方を意味します。
保険業界でいえば、保険会社が商品を組成し、保険代理店がお客様との接点を持ち、商品内容、リスク、推奨理由、留意点等を説明するという関係があります。
保険会社がどれだけ適切に商品を設計しても、その商品がお客様にどのように説明され、どのようなお客様に提案され、販売後にどのような声が寄せられているのかを把握できなければ、顧客本位の商品提供は十分に機能しません。
反対に、保険代理店が保険会社から提供された商品情報や想定顧客属性を正しく理解せず、販売現場の声を保険会社に還元しないままであれば、保険会社の商品改善や情報提供の高度化にもつながりません。
プロダクトガバナンスは、保険会社だけの問題ではありません。保険会社と保険代理店が、それぞれの役割を踏まえて連携することによって、はじめて実務の中で機能するものです。
原則6の注6・注7は、販売会社の役割を明確に示している
この点は、金融庁の原則6の注6・注7を見ると、より明確です。
原則6・注6
「金融商品の販売に携わる金融事業者」が、商品を実際に購入した顧客属性、顧客の反応、販売状況等に関する情報を、金融商品の組成に携わる金融事業者へ提供するなど、連携を図るべきことが示されています。
原則6・注7
「金融商品の販売に携わる金融事業者」が、金融商品の組成に携わる金融事業者において、どのようなプロダクトガバナンスの取組みが行われているかの把握に努め、必要に応じて、組成会社や商品の選定等に活用すべきことが示されています。
ここでは明確に、「金融商品の販売に携わる金融事業者」が主語になっています。
保険代理店は、保険商品を組成する立場ではありません。しかし、保険商品を販売・推奨する立場として、次の役割を担っています。
- 保険会社との情報連携
- 商品特性や想定顧客属性の理解
- 販売状況や顧客の反応のフィードバック
- 保険会社や商品の選定への活用
このことからも、保険代理店がプロダクトガバナンスに関する補充原則のうち、販売会社として関係する部分を顧客本位の業務運営方針に反映することは、金融庁原則の趣旨に沿った対応といえます。
補充原則3・4・5は、保険代理店の実務と無関係ではない
保険代理店が補充原則を採択することは、保険会社の役割を肩代わりするという意味ではありません。
あくまでも、販売会社として関係する範囲を明確にし、顧客本位の業務運営方針に反映するものです。
補充原則3
補充原則3では、商品を組成する金融事業者が、商品の特性や想定顧客属性等を整理し、金融商品の販売に携わる金融事業者に十分理解されるよう情報連携すべきことが示されています。
保険代理店側の実務
保険会社から提供された商品特性、リスク、開発背景、想定顧客層等を正しく理解し、お客様にふさわしい商品を提案することにつながります。
補充原則4
補充原則4では、商品組成後の検証にあたり、実際に購入した顧客属性、顧客からの苦情、販売状況等について、販売会社から情報提供を受けることが想定されています。
保険代理店側の実務
お客様の声や販売現場で把握した内容を保険会社に伝え、より良い商品提供につなげていく取組みです。
補充原則5
補充原則5では、商品組成会社が、顧客に対し、運用体制やプロダクトガバナンス体制等について分かりやすい情報提供を行うべきことが示されています。
本文だけを見ると、保険会社が直接顧客に説明するもののように読めます。しかし、補充原則5の注では、必要に応じて「金融商品の販売に携わる金融事業者を通じて」情報提供を行うこと、また、商品性に関する情報について、販売会社と連携して分かりやすい情報提供を行うことが示されています。
保険代理店側の実務
保険会社から提供された情報を正しく理解し、商品内容、リスク、推奨理由、留意点等を、お客様に分かりやすく説明することです。
保険募集の現場を考えれば、保険会社がすべてのお客様に直接説明する場面は限られます。実際にお客様と接点を持ち、説明するのは、多くの場合、保険代理店です。
そのため、保険会社から提供された情報を保険代理店が理解し、お客様に分かりやすく説明することは、保険代理店にとっても顧客本位の業務運営そのものです。
「保険代理店だから非該当」と一律に判断するのは正しくない
もちろん、補充原則のすべてを、すべての保険代理店が同じように採択すべきという意味ではありません。
補充原則には、商品組成会社である保険会社が中心となって対応すべき項目もあります。
保険代理店に求められる判断
自社の業務内容、取扱商品、顧客接点、保険会社との連携実態を踏まえ、関係する項目については採択し、関係しない項目については非該当として示すことです。
重要なのは、保険代理店だから補充原則はすべて非該当、という機械的な判断をしないことです。
金融庁の金融事業者リストにおいても、原則2から7だけでなく、補充原則1から5および注を含めて、取組方針等との対応関係を明らかにすることが前提とされています。
また、該当するサービスの取扱いがない場合や、業法等の制限により実施できない場合には「非該当」を選択することとされています。
保険代理店であることだけを理由に、補充原則を一律に対象外とする考え方は、現在の金融庁原則の建付けとは整合しません。
保険代理店が補充原則を一部採択する意味
保険代理店が補充原則を一部採択する意味は、保険会社の役割を代理店が担うことではありません。
保険代理店として、保険会社と連携しながら、次のような取組みを顧客本位の業務運営として明確にすることです。
- 保険会社から提供される商品特性、リスク、想定顧客属性等を理解すること
- お客様の意向、属性、理解度に応じて、ふさわしい商品を選定・推奨すること
- 保険会社から提供された情報を、お客様に分かりやすく説明すること
- お客様の声、苦情、要望、販売現場で把握した反応等を、必要に応じて保険会社に伝えること
- 保険会社のプロダクトガバナンスに関する取組状況を把握し、必要に応じて商品選定や推奨方針に活用すること
これらは、保険代理店にとって「やりすぎ」ではありません。むしろ、顧客本位の業務運営を実務として具体化するうえで、重要な取組みです。
指導する側にも、十分な理解と根拠が求められる
保険代理店は、保険会社から委託を受けて保険募集を行う立場にあります。そのため、保険会社の担当者から指摘や助言を受けた場合、保険代理店側は「保険会社が言うのだから正しいのだろう」と受け止めてしまうことがあります。
もちろん、保険会社が保険代理店に対し、募集管理態勢や業務品質の向上に向けて助言・指導を行うこと自体は重要です。
しかし、指導する立場にある以上、その発言には十分な知識と根拠、さらにその指導の責任が求められます。
金融庁原則や監督上の考え方を十分に理解しないまま、断片的な知識で「これは不要、対象外である」「代理店が採択、対応するものではない」と判断することは、保険代理店の前向きな取組みを誤った方向へ導くおそれがあります。
保険代理店に業務品質の向上を求めるのであれば、保険会社として検査する側もまた、金融庁の原則を正しく理解し、指導する立場にふさわしい知識と教養を備えたうえで、根拠に基づいた助言・指導を行うべきではないでしょうか。
今回のプロダクトガバナンスに関する補充原則についても同様です。
補充原則の本文に「金融商品の組成に携わる金融事業者」という表現があることだけを見れば、保険会社が中心となる原則であることは分かります。
しかし、そこで思考を止めてしまい、「だから保険代理店には関係ない」「代理店が採択するのはやりすぎである」と判断するのは、金融庁原則の全体像を十分に踏まえたものとはいえません。
保険代理店に対して「補充原則は不要、対象外である」と一律に指導することは、かえって金融庁が求める顧客本位の業務運営の実現を妨げることにもなりかねません。
保険業界では、業界再編や保険代理店の業務品質向上が大きなテーマとなっています。その中で、保険会社は、保険代理店に対して、募集品質、管理態勢、顧客本位の取組みを求める立場にあります。
であるならば、委託元である保険会社側にも、金融庁原則を正しく理解し、根拠に基づいて助言・指導を行う姿勢が求められます。
保険代理店に業務品質の向上を求めるのであれば、保険会社側もまた、指導する立場としての知識、説明責任、そしてモラルを高めていく必要があります。
誤った理解に基づく中途半端な指導は、保険代理店の顧客本位の取組みを後退させるだけでなく、外部専門家による適切な支援や、代理店自身の前向きな改善努力を損なうことにもつながります。
顧客本位の業務運営は、保険代理店だけに求められるものではありません。保険会社と保険代理店が、それぞれの立場で金融庁原則を正しく理解し、同じ方向を向いて取り組むことによって、初めて実効性を持つものです。
外部監査機関としての見解
当社は、保険代理店の外部監査機関として、保険代理店の内部管理態勢、募集管理態勢、顧客本位の業務運営方針の整備・運用状況を確認してきました。
その立場から見ても、保険代理店がプロダクトガバナンスに関する補充原則のうち、販売会社として関係する部分を採択し、顧客本位の業務運営方針に反映することは、金融庁原則の趣旨に沿った対応であると考えています。
重要なのは、保険代理店が保険会社の役割を担うことではありません
保険代理店として、保険会社から提供される商品情報を正しく理解し、お客様に分かりやすく伝え、販売現場で把握したお客様の声や反応を保険会社に届けていくことです。
この役割を明確にするために、補充原則の一部を顧客本位の業務運営方針に反映することは、形式的な対応ではなく、顧客本位の業務運営を実効性あるものにするための前向きな取組みです。
したがって、「補充原則は保険会社が採択するものであり、保険代理店が採択するものではない」と一律に判断することは、当社としては、金融庁原則の全体像を踏まえた理解とはいえないと考えています。
保険代理店に業務品質の向上を求めるのであれば、保険会社側もまた、金融庁原則を正しく理解し、根拠に基づいた助言・指導を行う必要があります。
顧客本位の業務運営は、保険代理店だけの努力で実現するものではありません。保険会社と保険代理店の双方が、製販全体として同じ方向を向くことによって、はじめてお客様にとって本当に価値のある業務運営につながるものと考えます。
本コラムの結論
- プロダクトガバナンスは、商品組成会社だけで完結するものではありません。
- 保険代理店には、販売会社として情報連携、顧客への説明、顧客の声の還元等の役割があります。
- 補充原則のすべてを採択する必要はありませんが、保険代理店であることだけを理由に一律に非該当とすることも適切ではありません。
- 自社の業務内容に関係する補充原則を見極め、顧客本位の業務運営方針に反映することが重要です。