2026年8月28日、金融庁から、比較推奨販売に関するパブリックコメントの結果ならびに改正後の「保険会社向けの総合的な監督指針」等が公表されました。
パブリックコメントには、133先から759件の意見が寄せられています。改正後の内閣府令の施行日および監督指針の適用日は、いずれも2028年3月1日です。
本コラムでは、金融庁が公表した比較推奨販売の制度改正について、何が変わるのか、更改・更新を含む保険代理店の募集実務にどのような見直しが求められるのかを整理します。
金融庁の公表資料は、次のページから確認できます。
金融庁|令和7年保険業法改正に係る内閣府令及び「保険会社向けの総合的な監督指針」等の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果等の公表について
金融庁による比較推奨販売の制度改正とは
今回の公表で重要なのは、施行日が確定したことだけではありません。
これまで認められてきた、保険代理店(自社)独自の推奨理由による推奨販売、いわゆる「ハ方式」が廃止され、比較推奨販売の出発点を「保険代理店(自社)の販売方針」から「顧客の意向」へ転換することが明確になりました。
今回の制度改正における重要ポイント
- 代理店独自の推奨理由による、いわゆる「ハ方式」が廃止されます。
- 更改・更新も、既契約と同条件であることだけをもって当然に対象外とはなりません。
- 比較推奨販売の出発点を「代理店の販売方針」から「顧客の意向」へ転換する必要があります。
ハ方式の廃止は、推奨理由の書き換えではない
現行のハ方式では、顧客意向に基づいて商品を選別していない場合でも、保険代理店(自社)独自の推奨理由を説明することにより、特定の商品を推奨する方法が認められていました。
今回の改正により、このハ方式は廃止されます。
改正後、複数の比較可能な同種の商品から特定の商品を選別し、提示・推奨する場合には、顧客の意向に沿って商品を選別し、合理的かつ一定の具体性を有する基準や理由を説明することが必要となります。
したがって、現在使用している推奨理由の表現を変更するだけでは、今回の改正に対応したことにはなりません。
保険代理店が先に推奨する保険会社や商品を決め、その後、その商品に合うように顧客意向を確認する募集運用から、先に顧客の意向や重視する事項を把握し、その意向に沿って商品を選別する募集運用への転換が必要です。
今回変わるのは、推奨理由の文言ではなく、商品を選別・推奨するまでの判断過程そのものです。
更改・更新も「従来どおり」を当然の前提にはできない
今回のパブリックコメントでは、既契約の更改・更新に関する考え方も具体的に示されました。
金融庁は、既契約と同条件の募集であることだけをもって、当然に比較推奨販売に関する規定の対象外となるものではないとしています。
また、過去の契約締結時に把握した顧客意向だけをもって、満期・更新時における顧客意向が確定しているものとして取り扱うことも適切ではないとしています。
したがって、損害保険の更改(継続)や生命保険等の更新において保険代理店が保険募集を行う場合に、顧客の現在の意向を確認する前から、既契約と同じ保険会社・商品で手続きを進めることを当然の前提とした募集運用は、見直しが必要です。
既契約と同じ保険会社・商品であることだけを理由に、更改・更新を当然に比較推奨販売の対象外として取り扱うことはできません。
一方、今回の改正は、すべての契約について毎回、すべての取扱保険会社の商品を一律に比較することを求めるものでもありません。
重要なのは、比較した保険会社の数ではなく、顧客の現在の意向をどのように把握し、その意向に基づいて、なぜその商品を選別・提示・推奨したのかを説明できることです。
保険代理店が今から優先して行うべきこと
施行まで約18か月あるからといって、社内規程や帳票の改定から直ちに始めることが、必ずしも適切な順序とは限りません。
最初に行うべきことは、現在の推奨販売方針と実際の募集運用を確認し、保険代理店(自社)都合による商品選別がどこに残っているのかを把握することです。
(1) 現在の募集運用を確認する
まず、次のような募集運用が行われていないかを確認します。
- 保険代理店として推奨する保険会社や商品をあらかじめ定めている
- 顧客意向を確認する前に、提案する保険会社や商品を決めている
- 手数料、取引関係、事務上の都合等が商品選別に影響している
- 更改・更新では、既契約と同じ保険会社・商品での継続を当然の前提としている
- 推奨理由が「当社方針」「取扱実績」「事故対応力」などの抽象的な表現にとどまっている
現在の募集運用を把握しなければ、どの社内規程や帳票をどのように改定すべきかを判断することはできません。
(2) 新規・更改・更新の募集フローを見直す
次に、新規契約、損害保険の更改(継続)、生命保険等の更新について、それぞれの募集フローを整理します。
顧客意向の把握から、比較対象となる商品の整理、商品の選別、提示・推奨、推奨理由の説明、顧客による選択までの流れが、顧客意向を起点としたものになっているかを確認する必要があります。
特に、更改・更新については、これまでの募集方法をそのまま継続するのではなく、満期・更新時における顧客の現在の意向を、どの段階で、どのように確認するのかを明確にすることが重要です。
(3) 方針・社内規程・帳票・教育を連動させる
募集フローを整理した後に、推奨販売方針、社内規程、業務・コンプライアンスマニュアル、意向確認や比較推奨販売に関する帳票を改定します。
さらに、募集人が改定後の内容を理解し、実際の募集現場で運用できるよう、具体的な募集事例を用いた教育・研修が必要です。
方針や帳票を改定しても、実際の募集方法が従来のままであれば、実効性のある対応とはいえません。
約18か月は、募集態勢を再構築するための期間として考える
金融庁は、施行日を待つことなく、可能な限り速やかに体制整備を行い、適切な比較推奨販売を実施することが望ましいとの考え方を示しています。
この約18か月は、従来の募集運用をそのまま継続してよい期間ではありません。
現状確認、募集フローの再設計、方針・社内規程・帳票の改定、募集人教育、運用状況の確認と改善までを、段階的に進めるための準備期間といえます。
施行直前に推奨販売方針や帳票を差し替えるだけでは、募集現場への定着まで含む実効的な態勢整備は困難です。
今回の改正対応で問われるのは、単に何社の商品を比較したかということではありません。
顧客意向を出発点として、なぜその商品を選別・提示・推奨したのか。その判断過程を、保険代理店として合理的に説明できる募集態勢を構築することが重要です。
主な参照資料
・金融庁「令和7年保険業法改正に係る内閣府令及び『保険会社向けの総合的な監督指針』等の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果等の公表について」(2026年8月28日)